3Dプリンターの魅力って何だろう? 金型の制約から逃れ、アイデアをすぐカタチにできることではないだろうか。そう考えると、トライアンドエラーを繰り返して精度を高められるスピード感ばかりに目を向けがちだが、あらゆる個人が「ほしい!」と思うプロダクトを生み出せることこそ、3Dプリンターの根底に流れる価値であろう。石橋達男さんは、そんな3Dプリンターの存在意義を存分に駆使する。彼が手がけるプロダクトは、介護・生活支援アイテム。3Dプリンターなら、ユーザーの身体に即した個々人にとって嬉しいツールを生み出すことができることを証明する石橋達男さんのクリエイティビティに迫る。
■3Dプリンターを使うようになったキッカケを教えて下さい。
石橋達男さん(以下I): 3D印刷技術には、かなり以前から着目し、調査をしていました。開発ベンチャーにとって試作・評価のプロセスは必須で、以前は汎用加工技術を持つ外注加工業者に試作を依頼していました。しかし、日数や費用がネックとなることもあり新たな加工技術を探していた次第です。
このような状況下で最近の3Dプリンターの目覚ましい発展に遭遇し、3Dプリンターの導入・評価を実施することにしました。
フォルムが「&(アンバサント)」のカタチをした機能美オープナー。
「アンバサント・オープナー」も3Dプリントで作られています。
■石橋さんの創作活動に3Dプリンターが与えた影響とは?
I: 以前と違い、はるかに早く試作・評価ができるようになりました。大きな開発サポート環境が得られたことに感謝しています。ただし、我々が利用できる3Dプリンターの精度、材料の種類・耐性等の課題も把握できるようになり、今後のプリント技術の発展に期待をよせる状況です。
■「介護・生活支援の補助具」を3Dプリンターで作ることにした理由はなんでしょうか。
I: 人と水との係りをテーマに創業し、人とモノとの係りへテーマ展開し始めていました。その折にインクルーシブデザインの考えに遭遇し、3Dプリンターで出来ることから初めて見ようと考えました。高齢化社会の中でAssistive Technology(障がいを持つ人々を支援する技術)は大きな期待を寄せられています。3Dプリンターはその一翼を担うと信じています。
Loft & Fab Award 2015で3Dプリント賞を受賞した作品「タップアシスト」
■「介護・生活支援」分野で3Dプリンターが生む新しい可能性について
I: 3Dプリンターは仮想のアイデアを直ちに現実の形にしてくれるので、モノの客観評価が素早くできます。従って、改良や調整にも素早く対応可能で、これからのテーラーメード医療(個人差に配慮した医療)・介護・生活支援に最適です。
自分に合った介助・支援グッズが素早く提供されるシーンを3Dプリンターなら具現化できると思います。
■石橋さんが本格的にものづくりを始めたのはいつ頃ですか?
I: メーカーで長年、研究・技術開発に従事していましたので、それを含めれば創作活動は非常に長い期間になります。
研究・開発の仕事は好きでなければできません。しかし、好きなことをして、その結果が人の役に立つのであれば素晴らしい仕事だと思いつつ、今に至っています。
真空パックや袋包装等が開け難いこと・・・ありますよネ。これは便利!
■ものづくりへのこだわりについて
I: 人の考えは似ることが多いものです。アートではない、プロダクトでは特に注意する必要があります。着手前の事前調査や作品公開前の特許・意匠等の調査は必ず実施しています。
また、創作は試行錯誤の連続です。納得できるまで改良しますが、時間が立てばまた欠点が見つかります。しかし、それは成長の証だと思うことにしています。
■Rinkakへの出品作にある「介護・生活支援の補助具」は、どんなインスピレーションからアイデアが生まれましたか?
I: 入力補助具や筆記補助具は市場調査と特許調査の結果、開発テーマにしました。ただし、その形状や機構は、正に試行錯誤の連続でした。最初に考案した形と公開した形では全く違ったものになっています。
これらに限らず、すべての公開品は最初のアイデアとは全く異なったモノになっています。最近では最終品がどうなるか、自分でも楽しみにしている位です。介助・支援グッズは人が使う機能品であるため、機能発現の要請があります。
この機能デザインと意匠デザインの最適化を課題にして設計しています。
■3Dプリンターに今後期待することは?
I: 生活支援・介助グッズは市場に溢れています。しかし、「いいね」と思うものは少ないのが現状です。世界の多くのデザイナーがこの分野にもっと注目するようになれば「いいね」と思える製品が出て来るようになるでしょう。3Dプリンティングの世界には多くの才能あるデザイナーがいるので、ぜひともトライして欲しいと思っています。
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CREATOR PROFILE
石橋達男(いしばし・たつお)
補助具開発に取り組む開発ベンチャーを営む。「できることから始め、やり続けること」を心情に、rinkakでも介護・生活支援アイテムを出品する。創作ツールは「123D Design」「netfabb」「ColelDRAW」「Photoshop」など。http://mizu-lab.com
★石橋さんのRinkakページはこちら
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INTEVIEWER
新井 優佑(あらい・ゆうすけ)
インタビュアー。7年の出版社勤務を経て、独立。町工場を取材する中、日本の零細企業や小規模事業者の創意工夫には、仕事を豊かにする根源的なリソースが満ちていることを実感。手仕事からFabまで、作家の試行錯誤を追う。趣味・インタビュー、特技・インタビュー。
Twitter・ar1ys1c、Facebook・arai1983。
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