“日本刀を販売する、ということ”
ービジネスにおけるブレイクスルーのために、工夫された点は?
S: 弊社は外国の方をお客様として考えています。なので、我々のナショナリティやお見せする商品も、見た目としてわかりやすくするために鶴をロゴマークに採用したり。ヴィジュアルには気を遣っています。
Y: ORIGAMIは既に世界的な言葉ですもんね。
ー これらの試みの原点は?
S: あんまりあたらしすぎる表現や素材を試みようとすると「そういう表現は伝統工芸ではない」と言われたりすることがあったので。
ー よく聞く話ですね
S: この閉塞的な世界を持続可能なものとしてブレイクスルーさせるためには、どういう表現が大事かなと思って、時に自分自身で鞘を作ったりもしてたんですけども。そのマーケットの需要部分を見ていて何か変えていけないのかなぁ・・・とずっと思っていて。最近になって、ようやくこのプロジェクトの推進の兆しが見えてきてはいます。
ー 試みをビジネスにしようと考えたのは学生の頃から?
S: いえ、大学院を出てからですね。東京国立博物館に就職して3年程研究員やっていたんですけれども、今の団塊の世代のお父さんくらいの年齢の方々がですね、亡くなられて、遺品として家から文化財が出てくるんですよ。ご遺族の方たちはそういった文化財を残したいという想いで博物館に持って来られたり相談に来られたりするんですね。その人達の持ってきたものを鑑定して、歴史的な側面も鑑みたうえで、今の市場では価値がないので国では預かれません、とお断りするのが僕の居た部署の役目だったんですね。
Y: うーん。なるほど。
S: それがとても心苦しくって。現在、市場価値がなくても、その人にとっての思い出としては国宝と同じくらいの価値があるものを受け入れられない。で、そういうものはどうなるかというと、ヒドイ時は保管できずに破棄されて。この世からなくなってしまう。
Y: えっ。そのまま破棄されてしまうの?!
S: 大抵のものは遺族の方もどうしようもなくなるので...。掛け軸なども破棄するしかなかったり。そういう廃棄される文化財の一つが「日本刀」だった。破棄されなかったにせよ、日本刀などはオークションに出されてよくわからないところへ流れていってしまったり。そういうところもなかなか心苦しくて。そうしてお客様対応をしているうちに、個人のお客様の文化財を、市場価値関係なしに管理・保存することに需要があるんじゃないかと思って。
ー 独立に至ったという流れなんですね。
S: そう。許諾の上でお預かりした文化財を展示出品したり、販売の需要があったときにはその価値を示した上で仲介したり。3年くらいこのような事業をやっていますと、刀も同じような需要があって、且つ海外のお客様に需要があることが見えてきましてね。
横井氏のSUMISAYA(澄鞘)初期スケッチ。デザインコンセプトは「CROSS-SECTION(断面)」。日本刀の地肌にあらわれる波紋を、別の視点から垣間見せる演出を狙ったもの。
Y: なるほど。少し焦点をずらして話しますが、rinkakはデジタル製造技術のプラットフォームとして存在しているけれど、ポリシーとしては近いものがありますよね。実際、どの商品にどれだけの価値があるかなんて、出品クリエイターさんや購入ユーザーにしか図れないものがある。我々はどんなものでもデータの受け皿として存在し、いつでも出力と販売の手際を円滑にしておく。データさえあれば、技術進歩と共に再現の幅も変わりますから、そこにも期待を込めつつ。
ー 特に海を渡った途端、物としての価値のパラダイム・シフトは容易に起こり得ますからね。美術品に限らずとも、非言語で勝負しなくてはならない場合は、特に。
S: よく刀屋さんと話をしているとですね、海外のVIPの方(特に政治の案件)で日本から赴く場合に,日本刀は重宝するようです。お土産に日本刀を渡すとすごく喜ばれると。それが50〜100万のものでも、刀という存在価値が、ものすごく喜ばれるそうで。ともあれ海外のVIPに対して自国の文化の話ができないと厳しいものはありますから、こういったものを贈呈して少し知識を話すことができるというのは、外交を進める上でも様々メリットがあるみたいなんですね。
ー 実際のビジネスは、青写真通りにすんなりと行きましたか?
S: そうですね〜!今のところは。元々、父のコネクションもある程度確立された上での実践ですので。日本刀販売に関しては海外だけでなく国内に於いても、現在はあまり不自由はしていないですね。