04.『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん

2014/05/07
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NTTドコモのキャラクター「ひつじのしつじくん」の生みの親としても知られる吉井宏さん。名古屋のデザイン事務所で勤務後、上京し独立。アナログからデジタルへの変革期、出版社へ持ち込みを行う中で作風も大きく変化したそうだ。こうした時代背景の中から御自身のスタイルを確立させた吉井さん。第4回目となる今回は、キャラクターデザインをメインにお話を伺いました。






■吉井さんのプロダクト(マーチャンダイジング等)の取り組みについて、少しお聞かせください。
吉井さん(以下Y):
まだまだ趣味の範疇なので、プロダクトと呼べるところまでは…いかないですねぇ。一応、「キャラクターデザインとイラストの仕事をしています」という前提がある上で、余技としてこんな立体も作りますという立場でやっています。本業に近いところまで持っていきたいですが。




■最近始められたのですか?
Y: 作品として発表し始めたのは2006年頃。それまでは、イラストの延長として立体制作をやろうという考えはあまりなかったんです。デザイナーズトイの世界を知ったのがきっかけで、自分でも作ってみたい、と。





■創作全般のこだわりはありますか?
Y: なるべくなら楽しくやりたい、ということくらいですね。仕事に関しては、注文が来た時点で「相手は覚悟している」と思うじゃないですか。だって、”僕”を指名したわけですから。なので、その相手の気持ちを裏切らないようにしています。「僕が好きにやっていいんですね?」という解釈で取り組むというか(笑)。



■吉井さんのキャラクターはシンプル且つデフォルメされていて、限りなく削ぎ落とそうという趣向性が反映されているようにみてとれるのですが…。
Y: ああ! あります、あります。グラフィックデザインでいろんな事をしてきて、何がカッコイイってやっぱり、”削ぎ落とすこと”。意味を保つギリギリまで削る・シンプル、等が”カッコイイ”んだというものを見ながら仕事をしてきたので、キャラクターもその方向で「ギリギリの要素で見せたい」と思ってます。



[ Pu-Chan ] 2010年
3Dプリント出力物から原型を制作して複製・塗装したレジンキャスト製のフィギュア


■ギリギリの要素ですか!
Y: 作る都合で言えば、コントロールするポイントが少なければ少ないほど、納得するまでいじれるんですよ。複雑でゴテゴテしていろんな要素がくっついたものって、それぞれがコントロールポイントとして存在してしまうじゃないですか。パーツを何に取り替えたらもっと良くなるとか、そういった変更を始めてしまうとキリがないんで。
いじるところをなるべく少なく、少なく!していかないと、全体に神経が通わなくなってしまう。手に余るというか、責任持てなくなるというか。複雑すぎると最終的に自分で納得するモノが作りにくいんです。比較的ローポリだったり、パーツを分けずに一体型だったり、マテリアルが最小限なのも同じ考えです。この姿勢でやってるのが、TDW(The Daily Work)というシリーズなんです。



毎日生み出されるTDWのためのスケッチは膨大。



キャラが勢揃いです!こちらから見れます
[ The Daily Work ]




■そうだったんですね。
Y: デザインは、カタチの一番根本になるところまで遡って。装飾的サービスは最小限に、という感じでやっています(笑)。そうするとですね、結果的に「数」が作れることになるんですよ。たくさん作ったものから「選べる」。
でね、付け足していくのは簡単ですから。例えば、もっと複雑でリアルな造形にしてみようとか。表面にデコボコつけたいとか、服を着せたいとか。後から要素を追加することはいくらでも出来るはずなんで。カタチの根源となる大元の部分を作りたいと思ってやってます。




■そのような考え方でデザインするようになったのは何故ですか?
Y: え~っ…と(笑)そのね。面倒くさがりなんですよ、僕…(一同笑)。なるべくなら手を動かしたくない。昔は絵具で描いていましたけど、絵具で描くのが大っ嫌いで。なんでかというと、「こういう絵が見たい!」って絵は頭の中にあるのに、それを人に見せるには絵具で描かなきゃいけない…。それがすっごいかったるくて(笑)。めんどくさいし時間もかかるし…。丸一週間とか、ひどいときには半年もかかってました。

92年に作業環境をデジタルに移行させたら、ものすごい速さで描けるようになった。それまで一週間以上かかってたような絵が3時間で描けたりとか。考える速度に描く速度が追いついた。これはラクだぞと。で、十数年もデジタルで描いているうちに、それも面倒になってきて(笑)。で、「3Dだったら、描かなくてもいいんだ!」って。うふふ。




■描く事を最小限にする選択をしていくうちに、3Dソフトでキャラクターデザインを起こすようになっていったとは…!
Y: もともと立体として考えたものを平面に落とし込む描き方だったので、3Dに移行するのは違和感なかったです。ところで、紙粘土などで作る立体イラストレーションの世界ってあるじゃないですか。ああいうのも好きだったんですけど、やってみたくなった時にはデジタルに移行済みだった。
立体やりたくても、今さら机の上に粘土や絵具などアナログの道具を持ってくるのが嫌だったんですね。それをデジタル環境で出来ないかって考えてるうちに、Zbrush(3DCGソフト)を使い始めて。そのうちに3Dに完全移行しちゃったという。




■現在の作風はいつ頃確立しましたか?
Y: 80年代半ばから西洋風の幻想画っぽいものを描いていて、90年にそれらの作品を持って東京に出てきて出版社等を営業で回ったら「あぁいいですねぇ~!でも、これじゃあ仕事、ないですよ。」って言われて。どこ行ってもそう言われ続けて…。SFイラストもやってたんですけど、SF大会などに出入りしてるうちに、マニアを納得させるほどの情熱を持ち合わせてないことが判明してフェードアウト。



[ 楽団 ]1985年 初期の作風。アクリル絵具で描かれています。

[ 壁に飛ぶ ]1988年 デフォルメされたキャラ要素も垣間見れます...



■(当時の絵を見せていただきながら)緻密且つ、とてもシュールな作風ですね!
もうひとつ、ポップな方向もやりたいって思ってて、西洋風幻想画とカラフルポップが結びついて、こんな作風になりました。このあたりから既にふざけた感じとかやってたんですけど(笑)。
このへん何枚かの絵をまとめて”貸しポジ屋(※2)”に出していたんです。そうしたらこの絵(図A参考)がいきなり林真理子の単行本の表紙になったんですよ。それで作風として「あ、こっち方面もイケるんだ..。」と思って、本腰を入れるようになりました。その後、そうやって描いてた絵を3DCGに最適化していった感じです。
(※2)貸しポジ屋…画像の著作権を管理するリースサービス

[ 花少女 ]1991年 林真理子さんの本の表紙になったもの。アクリル絵具。


[ イガイガ坊 ]1991年 キャラクタライズのポイントが明確化してきた頃の作品。アクリル絵具。




■影響を受けた作家はいますか?
Y: 最初に影響を受けたのがイラストレーター/画家の高橋常政やウィーン幻想派の画家たち。もうちょっと後にクロード・ベルランド(Claude Verlinde)。特にベルランドは、人や物を融合させてキャラクター化するみたいな絵で、「あ、こういう方法アリなんだ!」って。描く技術は持ってるけど、何を描けばいいんだろうって悩んでたときに、そのあたりが突破口になったと言いますか。

昔は西洋の幻想画に憧れましたが…今は全くないですね。その頃の自分の絵は見たくないというか、恥ずかしいという感じで(笑)。だって、根っこが何にも無いんですもん。別に僕自身ヨーロッパに生まれたわけでもなし、歴史や宗教や思想に詳しいわけでもない。表面のスタイルだけ持ってきて、ちょっと不思議っぽく並べただけでしたから。日本人の僕がやるのは、すごく恥ずかしい。それで、「根っこのないものは、やっちゃだめだ」っていうことを常に考えるようになりましたね。




■これまでやってきたことで面白かったプロジェクトを教えてください。
Y: 秋元きつねさんとやった『ヤンス!ガンス!』は面白かったですねぇ…! 自分の個性を期待されて作ったキャラクターが、動いちゃうんですからねぇ。



[ ヤンス!ガンス!] rinkakスタッフ一押しはこの第六話!
2008年にスタートしたヤンス!ガンス!は2014年5月現在、12話まで公開。



■3Dプリンタはいつから使い始めましたか?
Y: 2007年にCINEMA 4DのWeb記事の企画で3Dプリントと3D切削をやってもらって感激しました。その後、仕事絡みを含めて十数種類のフィギュアを3Dプリント出力物を元に原型を作り、型を取って複製・塗装したりしました。いろんな方式のマシンで出力できて参考になりました。
ちなみに、自前で3Dプリンタは持たない主義です。外注なら最新のマシンが選び放題な上に、失敗の苦労なしに「出力に成功したもの」だけ受け取れる(笑)。




■3Dデータとリアルに製造されて出てくる立体物には、印象的な差異があると思いますが、イメージのギャップはどのように捉えていますか?
Y: 画面にあったものが初めて外に出てくると「痩せて貧相に見える」んです。初期には出力物を見て3Dデータを修正してたこともあります。今は、痩せることをあらかじめ織り込んで、ボリューム感に気をつけて作るので違和感ないです。画面の中で太りすぎてると感じないバランスも、自分の中ではもう調節が効きますね。




■これまで何体のキャラクターを作りましたか?
Y: 3DCGで作り始めてからですと、1200体位いるのかな? 露出していないものをあわせると、、2000体はいかないけれども、そのくらいは作ってるかも、たぶん。




■その中でもお気に入りのキャラクターは?
Y: それはもう、ひつじのしつじくん。メイドのメイちゃん。ヤンスガンスもそうですね。何故かってね、他者の意見がうまい具合に入って、葛藤の上で作ったデザインって、やっぱりすごく”良い”んですよ(笑)。自分が「こんなことやりたい!」ってストレートに通っちゃったデザインよりぜんぜん面白くなる。
そう、ひつじなんかもね、何百というスケッチを起こして、幾度となくクライアントとのやり取りがあって、その上で出てきたものですから。僕も納得するかたちで変更を加えていった結果が、しつじくん。僕の中ではね、もう高みにあがっちゃったキャラクターなんですね。そういうキャラクターは、他にはないですね。



ひつじのしつじくん。...苦労の末に生まれた珠玉のキャラだったんですね!© NTTdocomo





■キャラクター制作に一体何時間くらいかけますか?
Y: 仕事だと数日〜数週間、半年というのもあります。3Dソフトでのフィニッシュ作業はさすがにそんなにかかりませんが、スケッチなどの前段階にそのくらいかかったりします。3D作業そのもので言えば、TDW作品は以前は一体1~2時間程度で作ってました。時間をかけずに大量に作れば、その中にいいものが含まれる確率が上げられる。最近はもうちょっと良くするために粘って粘って、4~5時間とか丸一日とかかけることもあります。

けれどもね、本当は粘らなくてもいいと思っていて。即興で作って出して、後で見て、これちょっとブラッシュアップすれば良くなるかもっていうものを選んでいじる、という方法でいいと思っているんです。
あとね、完成直後と、ブログやFacebookやTwitterに上げた後では、感じが違うんですよ。他の人が見たっていう”意識”がはいるとね、「ああこれはやっぱり恥ずかしい」などの感覚が出てくる。




■恥ずかしい感覚はどこに宿るのですか?
Y: いやぁ~、あまりにもやっつけであるとか、マンネリであるとか。自分でも迷っている部分をそのまんま出しちゃった時とか。そういった、中途半端な部分に対してですよね。かといって、「これは誰が見ても傑作だろう!」って思って、パーンと出したものが、あとで凄く恥ずかしくなってきたりとかは…あるんですけれども(一同笑)。
けれど逆に、これは明らかにやっつけだろう!っと思えるものが凄い人気を得ることがあって。…人が「見る」という行為が入るのは、面白いですね。仕事で、後で恥ずかしくならない作品を作るいい訓練になってるかも。




■近い将来やりたいことがあれば教えてください。
Y: 今みたいなキャラクターの仕事は今後も続けていきたいです。立体制作のほうは、大きめのフィギュアをもっと作りたいですね。実は数年前から一点モノの中~大型作品を作ってまして(※3)。大型といっても最大90cmですけど。現在、9個が完成してます。
芯となる発泡スチロールを外注で3D切削してもらい、表面をFRP処理してます。理想は3Dプリンターで大型の原型が作れればよいのだけど…。ただ、3D切削や3Dプリントで原型を作ると、「過去の自分の命令で表面処理の作業をやらされてる感」が強すぎるので、次にやるときは粘土をこねて原型を作ってみようかなと思ってます。で、大きい作品を並べてドーンと展覧会したいです。
 (※3)大きい作品の制作過程はこちらから!



■大きいものを作ることに於いて根源的な欲求やモチベーションがあったりするのですか?
Y: サイズが大きいということは、それだけでパワーを持ちますもんね。小さいより大きいほうが迫力があって存在感があるに決まってる。僕は「どうだ!この形と色は」って見せたい欲求が強いんで、そう見せたければ大きくせざるを得ない。

あと、不器用なので、造形や塗装などの作業は大きいほうがラクってわかって、だんだん大きくなってきた経緯があります。現実的には作業場所や置き場所の制約もあるので、作り放題というわけにもいきませんが。あと、小さいものを「手の中で愛でる」的な感じも好きだし、場合によりますね。
3Dプリントについては、2~3回出力したら「もういいや」ってなった(笑)。いつでも出力できることを確認できたわけなので、あらためてバーチャルの世界に制作しに戻っていくというか。これは2Dのプリントでも同じ感覚で。プリントできることを確信できてるから、作品制作に身が入るというか。
もっと言えば、展示用に作品をでっかくプリントして壁に貼るのも、プロジェクターで壁に映した映像とたいして変わらない。同等なんですよ。でっかく見せる必要があれば、その空間のサイズに応じて実体化させる、といった感覚なんです。

今やっている大きい立体作品も、「でっかく見せたい」という欲求があるからでっかく作っているのであって。逆に、キャラのフィギュアを人に渡したり買ってもらえるようにするには、小さく持ちやすく、手頃な値段に設定できるサイズで実体化させる必要がある。だからrinkakさんに出してるフィギュアはあのサイズなんです。



[スルーン君(TDW_1787)]2011年 長さ70cm。エポキシ樹脂FRP。



■現在の制作環境を教えてください。
Y: MODOです。キャラクターのモデリングやペイントはZBrushやCINEMA 4Dを使ったこともありますが、MODOが発売された2005年以降は大半をMODOで作業しています。最近は、キャラクターアニメーションも3ds MaxではなくMODOを使うようになりました。




■最後に、3Dプリンター出力を実践したいと考えている皆様に向けて一言お願い致します。
Y: CADの人はモノを作る前提なので違うかもしれませんが、3DCGを出力して「触れるモノ」にすることは、仮想世界が現実世界と地続きになったことを体感するいい機会になると思います。3Dプリントの経験前と経験後では、ステージが一個ちがうかも。ぜひ、一度試してみてください~。







PROFILE


吉井 宏(よしい・ひろし)

イラストやキャラクターデザインを中心に活動。2003年頃から3DCGによるキャラクター制作を開始。少量生産のレジンフィギュアや大型のFRP立体作品にも取り組んでいる。代表作に「NTTドコモ ひつじのしつじくん」「ヤンス!ガンス!(MEAT OR DIE)」「NEXCO東日本 高速道路キッズ」など。公式ホームページ



★クリエイター出品ページもCHECK!

https://www.rinkak.com/shop/hiroshiyoshii


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